Yukifusa Hattori

僕たちの仕事はわずか2dBに魂を注ぐこと
いつかエンジンの個性を音で表現をしてみたい

服部 之総さん / Yukifusa Hattori

音と振動を担当するエンジニアである服部之総さんの仕事は、車内で聞こえるエンジンなどの音を狙いの音量に持っていくことが主な仕事だ。「元々“音”が大好きだったのです。様々な音を聞き分けることに興味があって、好みの音を求めてスピーカー屋に丸1日いたこともあります。また小さな頃から父親がギターを楽しんでいたこともあり、自分でもなんとなくギターを買い、バンドを始め、ライブをやって、アルバムまで作っていました。でも正直に言っちゃうと、音に関する仕事がしたくてこの会社に入ったわけではありません。面接時に楽器をやっていて、アルバム作りをしていたことなどを話したので、この仕事になったのかもしれません。結果としてとてもやりがいのある仕事に就けたわけですけどね」。

「音の開発は、自分たちの主観からスタートします。当然それを数値化し、様々な検証を行っていくのですが、音の領域は伝えることがとにかく難しい。僕たちはよく“2dB(デシベル)の価値”という言葉を使います。2dB下がると凄く良くなるのですが、たった2dBで印象が大きく変わるというのは一般的には伝わりにくいわけです。僕たちの仕事はここにどれだけこだわれるのかが勝負なんですよ」。

服部さんはCX-5以降の新世代商品群で異音を徹底的に撲滅、そしてロードスターではよりドライバーの気持ちを昂らせるサウンドづくりにも挑戦した。「ロードスターの開発に携わっているというと華やかな印象をもたれるかもしれませんが、基本的に音ってすごくやっかいなものなのです。実はクルマが発する音ってものすごくいっぱいある。それを全て制御するというのは本当に大変な作業です。僕たちの部署だけでなくいろいろな部署と連携をして開発を進めなければならないですしね。ですからロードスターでのサウンドづくりは全体の仕事のなかでは10%くらいのもので、残りの90%は不快な音を低減させるという仕事でした。でもこの10%はとても楽しい仕事になりましたね。何十本もの排気管を作らせてもらい理想の音を作りました」。

「僕の人生にはコンセプトがあって、それは“想いをカタチにしたい”ということなんです。大学時代から音楽活動も含めていろいろなことをやってきましたが、すべてがこの言葉に集約されています。クルマを作る仕事についたのもやはりここにあります。家電など他のものづくりも選択肢としてはありましたが、クルマなら交差点などで自分が作ったクルマに乗るお客様の表情で僕のものづくりへの想いが伝わっているのか見るチャンスがありますからね。想いをカタチにしてそれを多くのお客様に使っていただける、ここがクルマづくりの面白さだと思います」。

そんな服部さんに音の領域で今後どのようなチャレンジをしてみたいか聞いてみるとこう答えてくれた。「エンジンを表現する音にチャレンジしたいんです。そのエンジンの特徴というか個性を音で表現したい。V6やV8の音というくくりではなく、マツダが作ったエンジンの特徴を最大限に音で伝えたいんです。パフォーマンスもそうですし、走り感、動き感などクルマにはいろいろな部分でドライバーが感じる要素があります。僕は音でもそれを感じさせたいと思っています。その先に、エンジンだけでなく“様々な音を楽しむ文化”の礎を築けたらいいなと思っています」。

Yukifusa Hattori

服部 之総さん / NVH Performance

車両開発本部でNVH性能開発を担当するエンジニア。2代目のアテンザを担当した後、CX-5以降の新世代商品群の開発では異音撲滅チームに加入。その後、ロードスターの担当に。データ取りや検証を重ね、音という見えないものを見えるものにして開発を進めている