自分の手がけたものでお客様を笑顔にできるなら
1日1000回ものスライド検証もやり遂げる
「自分の手がけたもので誰かを笑顔にできる仕事をしたいと思っていました。そんな理由で学生時代はインテリアを学んでいて、将来は設計の仕事かなと思っていたのですが、全く違う方向にいっちゃいましたね」。そう語るのはシート開発に携わる芦原友惟奈さん。CX-5やCX-9のシート開発を担当した若手女性エンジニアだ。
「シートの開発は、まずやりたい事を明確にすることから始まります。やりたいことがひとつあった時、やらなければならないことはたくさんあるのです。私たちの仕事はそういった課題をひとつひとつ潰していくことがとても大事です。検証していく過程で得たデータだけではなく、お客様からの声も聞いています。お客様はシートの専門家ではありませんから“カタイ”とか“イタイ”という表現で評価をされます。私たちはそういったお客様が感じられた印象を、なぜ“カタイ”とか“イタイ”と感じたのか、それを検証するために何度も実際に座って、走って、その印象をきちんと把握し、データ化したうえで、改善方法を考えるという作業を繰り返しています」。
実際のシート開発の現場は何よりもコミュニケーションが大事だという。シートは人が座るものであり、その人を中心に様々な要素が取り囲んでいる。デザイナーやトリムまわりやインパネの設計者など、開発過程では様々な部門のエンジニアと連携をして作業を進める。「自分のやりたいことばかり押し通せないけど、本当にやるべきことにはとことんこだわりたい。ここはいつも苦労する部分です。なかなか自分のやりたいことが伝わらないこともあります。こういう時はしんどいなと思いますね。なんでわかってくれないの!って、心のなかで叫ぶこともありますよ」。
しかしこれまでのシート開発ではその努力が報われたこともあったという。「シートの耐久テストというのがあるのですが、たまたまとても急ぎの案件がはいりました。まだその頃は車種開発の流れを少し理解し始めていたような時期だったのですが、自分なりにこうやったら良いのではないかと考え、仮説を立て検証しました。シートレールに関係する部分で、お客様の使用を考えると10年の使用を保証しなければならない。となると最低でも1000回のスライド検証が必要ということになりました。急ぎの案件でしたから、私は自ら丸1日かけ1000回のスライドをやり遂げました。丸1日で、10年分を検証するのですから、翌日はものすごい筋肉痛でしたね。そしてその検証によって新しい部品がすぐにできあがりました。当然、その部品も検証が必要になるわけで、私はもう1日、1000回のスライドをやりました。さすがに2回目は泣きそうになりましたよ。でも自分はこう考え、こう検証し、このようにしましたと上司に伝えたところ、普段はとても厳しい上司が『よく頑張ったな。もしこれがダメなら俺が一緒に世界中回って謝ってやる。これでいこう』と言ってくれたんです。本当に嬉しかったですし、この仕事のやりがいをこの時に見つけることができたような気がしました」。
芦原さんは自らが手がけたCX-5、CX-9を世に送り出した。自分の作ったものをお客様に使っていただいて笑顔にしたいという夢が実現できたということになる。「街中でCX-5を見かけると我が子のように見てしまいます。私も開発チームの一員として手がけたクルマが世界中の人に乗っていただけているのです。本当に嬉しいです」。