Mai Utagawa

上質なだけではなく、これまでにない価値を見つけ
自らのデザインにいち早く取り入れていきたい

宇多川 舞さん / Mai Utagawa

「ウエッジウッドのパウダーブルーとの出会いは私にとって大きな転機となりました」。デザイン本部でカラーデザインを担当する宇多川舞さんがプロダクトデザイナーを目指すきっかけとなったのは、そんな意外な出会いだった。「このティーカップは色とカタチのバランスが絶妙で、大胆かつハッとさせられる印象がありました。これを見た瞬間、色もカタチも見ることができるプロダクトデザインの道へと進むことを決めました。その後、カラーデザイナーという仕事があることを知り、色や素材の側からカタチにも影響を与えられる仕事だなと思いこの世界へ。特にクルマがやりたかったわけではないのですが、色や素材とカタチを融合させ、空間やクルマそのもののイメージを作っていくというプロセスに興味を持ちマツダのデザイン本部にはいりました」。

宇多川さんは3代目デミオとベリーサの限定車を長い期間担当し、最近ではCX-9の内外装を担当した。「CX-9では新しい素材もたくさん取り入れました。革も以前から使っているものよりも柔らかく、触感の良いものを使ったり、本物のアルミやウッドでも新たな表現にチャレンジしました。その時にただ良い素材をカタチにいれましたということではなく、素材の持っている良さを引き出してあげたいと思い、革の柔らかさをさらに引き出すために縫製でもふっくらした感触が出るようにしたり、アルミやウッドも機械加工されたものではあるのですが人の手で長い時間をかけて磨き込まれたような味わいを表現しました」。

近年カラーデザイナーはCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザイナーと言われ、最終的な仕上げまで担当する。それだけに量産車に落とし込むという作業はかなり難易度が高いのだという。「無垢のアルミの塊や木から削りだしたものを人の手で磨き込んだような表現をターゲットにしても、実際にはそんな素材は使えません。そこをどのように量産車で表現するか、この問題をどのようにクリアするかがいつも大変ですね。これはデザイナーひとりではどうにもならず、他部門の方や関連会社さんとの共同作業となります。ですから彼らにこの表現へのこだわりを伝え“一緒にやりきりましょう”とお互いの間に共通の覚悟を持つことが一番大事なんです。そういったコミュニケーションの中で、世代によって感覚の違いがあることは理解しています。でもそんな時にこそ私はきちんと自分の想いを伝えるようにしています。なぜならそれこそ私に求められているような気がするからです。私自身、クルマにとても詳しいわけではありません。でもそういった私自身の視点で、クルマをよく知っている人たちには思いつかないような新たな気づきを与えたいのです。若い世代の視点、自分らしい視点を先輩たちにぶつけていくことも私の仕事なのです。理解をしてもらうまでとても苦労しますし、『何を言っているのかわからないよ』って言われることも多いですけどね、やりがいはあります」と、若手デザイナーゆえの苦労についても語ってくれた。

「いま、世界中の自動車メーカーがカラーやマテリアルの領域で凌ぎを削っています。単に上質にするだけだったらお金をかければいい。でも私はそういうアプローチではなく、この領域で日本らしさやマツダらしさを求めていきたいと思っているんです。自分のデザインでは上質なだけではなく、これまでにない価値を見つけていきたい。そしてそれをいち早く取り入れていきたいと思っています」。

Mai Utagawa

宇多川 舞さん / Color & Trim Design

デザイン本部でカラー&トリムデザイングループに所属するデザイナー。日頃はアートや家具などクルマ以外のものからインスピレーションを得ることも多く、常にアンテナをはっているという。自分の愛車はないが実家に戻った時にはよくドライブにでかけるという