Miyoko Ishikawa

知恵を使い、工夫をして、安くて良いものを作る
これがエンジニアとしてのこだわりどころ

石川 美代子さん / Miyoko Ishikawa

「実は私、この会社に入ってから運転免許を取りました。しかも最初はAT限定だったんですよ」。そう語るのはロードスターのマニュアルトランスミッションのクラッチシステムを開発した女性エンジニア、石川美代子さんだ。「学生時代から運転には興味はありましたが、ものづくりのほうが好きだったんです。ですから当初は漠然とものづくりに関連する仕事に就きたいと思ってマツダへ入社しました」。しかし入社してすぐに行われた各部門の紹介で石川さんは駆動系部門に興味をもってしまう。「先輩社員が丁寧にマニュアルトランスミッションの話をしてくれたのですが、私にはほとんど理解できませんでした。でもこの全くわからないというところに凄く興味が湧いてしまったんですよ。そして配属の希望を出してみたら、まさかの決定。当時AT限定免許しか持っていなかった私がマニュアルトランスミッションの開発をすることになったのです」。

実際に配属が決まれば、そこはマニュアルトランスミッション開発の最前線。運転ができないなんて通用するはずがない。「めちゃくちゃ、頑張りましたよ。マニュアル車に乗ったことがない人間がその開発するわけですからね。でも今となってはそれがとても良い経験になっているんです。当時はひと世代前のマニュアル車で必死になって運転の練習をしていましたが、どれも私には扱いにくく、もっと運転しやすいマニュアル車を作らなければダメだと思いました。誰でも乗りやすいマニュアルトランスミッションを作る。それが現在に至る私のマニュアルトランスミッション開発の基本的な考えかたになっています」。

石川さんはスカイアクティブモデル群の開発に携わり、今から約3年前にマツダが掲げる”人馬一体”を象徴するモデル、ロードスターのマニュアルトランスミッション(クラッチシステム)の担当に抜擢された。「ファンやお客様を絶対に裏切れないというプレッシャーがありました。ですから過去のモデルも徹底的に乗り比べ、データ計測をしました。そして新しいロードスターで一番大事にしなければいけない部分は何かを考えた末に出た答えがリズムだったのです。発進も変速もリズムが大事。運転するときにはその人なりのリズムがあるんです。そのリズムにぴったり合うような特性にするのが一番のこだわりどころ。スイートスポットを見つける作業はとても大変でしたけどね」。石川さんが産み出したマニュアルトランスミッションは街中からワインディングまでリズミカルな変速が楽しめると世界中から高く評価され、ロードスターのワールド・カー・オブ・ザ・イヤー獲得にも大きく貢献した。

石川さんは自身のものづくりへの想いをこう話してくれた。「クラッチに関して言えば、私はその存在感をなくすことが一番大事だと思っています。違和感無く、無意識に操作ができてはじめて人馬一体を感じてもらえるのです。またクラッチに限らず言えば、安くて良いものを作るというのが私の目標です。ひとりでも多くのお客様に自分たちの作っている商品を知ってもらいたいですし、楽しんでもらいたい。高価なものを使えば良いものができるのはある意味当然のことで、それは技術力ではありません。私たちは知恵を使い、工夫をして、安くて良いものを作る。ここがエンジニアとしてのこだわりどころで、何より自分自身のこだわりです。その結果、多くのお客様に喜んでもらえて、次のクルマもまたマツダ車にしようと思ってもらえたらとても嬉しいですね」。

Miyoko Ishikawa

石川 美代子さん / Powertrain

パワートレイン開発本部でマニュアルトランスミッションのクラッチシステム開発を担当する女性エンジニア。スカイアクティブモデルの開発に携わる傍ら、テストドライバーの資格を取得。それがきっかけとなりプライベートではラリーにも参戦している